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2025年9月22日
ナチュラルガーデンを作るためのガーデンデザインのポイント
風がそよぎ、光が舞う。我が家だけの自然風景を育む
木漏れ日が地面に揺れ、風が草木の葉をかすめてサラサラと音を立てる。蝶が舞い、鳥がさえずる。そんな、ありのままの自然の風景を切り取ってきたかのような「ナチュラルガーデン」は、なぜこれほどまでに私たちの心を惹きつけるのでしょうか。それは、単なる庭という物理的な空間を超えて、日々の暮らしの中に心の安らぎや、自然と共生する本質的な豊かさをもたらしてくれるからに他なりません。計算され尽くした整形的な庭とは対極にある、その優しく、どこか懐かしい佇まいは、現代に生きる私たちが無意識に求めている癒やしの原風景なのかもしれません。
しかし、「ナチュラル」という言葉が持つ、一見すると簡単そうな響きの裏には、多くの誤解が潜んでいます。ナチュラルガーデンとは、決して「何もしない自然まかせの庭」や「ただ雑然と植物が茂った庭」のことではありません。その実は、まるで人の手が加えられていないかのように見せるために、緻密に計算されたデザインと、植物の生態に関する深い知識、そして自然のサイクルを理解する洞察力の上に成り立つ、極めて高度で洗練されたガーデンスタイルなのです。
本記事では、その誤解を一つひとつ解きほぐし、真のナチュラルガーデンをあなた自身の庭で創造するための、本質的なデザインポイントを体系的に解説していきます。空間を自然に見せるための基本的な考え方から、具体的な植栽テクニック、素材選びの哲学、そして持続可能な管理の方法まで、あらゆる角度から、その奥深い世界へとご案内します。この記事が、あなただけの美しい自然風景を育むための、確かで信頼できる道しるべとなることを心から願っています。
目次
1. ナチュラルガーデンの基本的なデザイン要素
「直線」を避け「曲線」で描く
ナチュラルガーデンのデザイン哲学の根幹をなすもの、それは自然界への深い敬意と模倣です。雄大な山々の稜線、蛇行する川の流れ、森の中に続く動物たちのけもの道。私たちの心を打つ自然の風景の中に、人工的な直線はほとんど存在しません。この摂理に倣い、ナチュラルガーデンの設計においても、定規で引いたような硬直した直線を極力排し、生命の躍動を感じさせる、しなやかで有機的な「曲線」をデザインの基調とすることが、その第一歩となります。
例えば、花壇の縁取りを、カクカクとした四角形ではなく、緩やかにカーブさせる。庭の中を横切る小道(アプローチ)を、最短距離の直線ではなく、流れに身を任せるようにS字を描かせる。芝生と植栽エリアとの境界線を、まるで湖の岸辺のように、ゆったりとした曲線で区切る。こうした工夫によって、空間には視覚的な柔らかさと、自然な時の流れが生まれます。人の視線は曲線に沿ってゆっくりと誘導され、庭の奥へと誘われます。この柔らかなラインこそが、人工物である庭を、自然の風景へと近づけるための、最も基本的で強力なデザイン言語なのです。
意図された「不均衡」と「非対称」の美
西洋の伝統的なフォーマルガーデンが、シンメトリー(左右対称)の厳格な様式美を追求するのに対し、ナチュラルガーデンはその対極にある、アシンメトリー(非対称)の美をその本質とします。左右均等に整えられた景観は、静的で安定した、格調高い美しさを持ちますが、ナチュラルガーデンが目指すのは、常に変化し、成長し続ける、生命感あふれる動的な美しさです。
しかし、注意すべきは、この非対称性が、単なる無秩序なアンバランスを意味するのではないという点です。それは、計算され尽くした「意図された不均衡」でなければなりません。例えば、庭の片側にボリュームのあるシンボルツリーや大きな景石を配置した場合、反対側には空間的な「余白」を多めに取ったり、背の低い草花の群生を配置したりすることで、視覚的な重量感のバランスを取ります。
完全に均等ではないが、全体として見ると不思議と心地よい均衡が保たれている。この絶妙なバランス感覚が、ナチュラルガーデンに、予測不能な面白さと、何度見ても飽きることのない奥行きを与えるのです。まるで、自然の風景が、長い年月をかけて自らを形成してきたかのような、説得力のある景観がそこに立ち現れます。
2. 植物を活かした自然な庭づくりのコツ
自然の植生に学ぶ「混植」と「ドリフト植え」
自然の野山を散策すると、同じ種類の植物がきれいに列をなして生えている光景はまず見られません。そこでは、多種多様な植物が、互いに競い合い、あるいは寄り添いながら、複雑なコミュニティを形成しています。この自然の植生のあり方を庭で再現する手法が「混植」です。パンジーならパンジー、マリーゴールドならマリーゴールドと、品種ごとに区切って植えるのではなく、生育環境の好みが似ている様々な植物を、モザイク状に混ぜ合わせて植えていきます。これにより、人工的な植栽感が薄れ、より自然で豊かな表情が生まれます。
さらに、その植え方にも自然に倣うテクニックがあります。それが「ドリフト植え」です。これは、同じ種類の植物を庭のあちこちに点々と植えるのではなく、まるで風によって種が運ばれ、その場所で自然に発芽して群落を形成したかのように、ある程度の数の株を、不規則な形の塊として、数カ所に「流れるように」配置していく手法です。このドリフト(流れ)を、庭のいくつかの場所で繰り返すことで、視覚的なリズムと繋がりが生まれ、庭全体が一体感のある自然な風景として認識されるようになります。
構造を作る「骨格植物」と彩りを添える「草本植物」
美しいナチュラルガーデンの植栽は、無計画な寄せ集めではなく、建築における設計図のように、明確な役割分担に基づいて計画されています。まず最初に配置すべきなのが、庭全体の構造的なフレームワークとなる「骨格植物」です。これには、庭に高さと立体感を与える樹木や、一年を通じて庭の構造を支える大型のグラス類(オーナメンタルグラス)などが含まれます。これらの骨格植物が、庭の基本的な間取りを定め、冬枯れの季節にあっても、その枝ぶりやシルエットで庭の景色を支える重要な役割を果たします。
この骨格が決まったら、次はその間に、季節ごとの彩りを添える「草本植物」を植え込んでいきます。春に咲くもの、夏に盛りを迎えるもの、秋に美しい花を見せるもの、と開花時期をずらしながら配置することで、一年を通じて庭のどこかで何かが咲いている、変化に富んだ景観を創出します。
そして、現代のナチュラルガーデンの思想において特に重要視されているのが、花が咲いている時期だけでなく、「花後の姿」までも美しい植物を選ぶという視点です。エキナセアやセダム、アストランティアなどの花は、枯れた後もその形を保ち、冬には霜をまとって彫刻のような美しさを見せます。こうした植物を積極的に取り入れることで、ナチュラルガーデンは、生命のサイクルそのものを体感できる、より深く、詩的な空間へと昇華するのです。
3. 庭全体の統一感を出す素材選び
「経年変化」をデザインの一部として受け入れる
ナチュラルガーデンに用いる素材を選ぶ上で、最も核心的な思想となるのが、新品の輝きや完全性を求めるのではなく、時間の経過と共に移ろい、変化していく様を美しいと感じる美意識です。木材、石、金属といった素材が、雨風や太陽の光にさらされることで、その表情を少しずつ変えていく「経年変化(エイジング)」を、劣化ではなく「味わい」として肯定的に受け入れることが、ナチュラルガーデンの世界観を深める鍵となります。
例えば、設置したばかりの木製フェンスやパーゴラは、やがてその色が抜け、趣のあるシルバーグレーへと変化していきます。敷き詰めた石畳やレンガは、その隙間や表面に少しずつ苔がむし、しっとりとした風情を醸し出します。アイアン製のアーチやトレリスには、やがて錆が浮かび、時の流れを感じさせるアクセントとなります。
こうした変化を、無理に修復したり、新品の状態に戻したりしようとするのではなく、庭がその土地の環境に馴染み、年月と共に成熟していく証として楽しむ。この姿勢こそが、瞬間的な美しさではなく、持続可能で深みのある美しさを庭にもたらすのです。素材を選ぶ際には、「この素材は、10年後にどんな表情を見せてくれるだろうか」と想像してみることが大切です。
その土地の風景に溶け込む自然素材
ナチュラルガーデンが目指すのは、あたかもずっと昔からそこにあったかのような、その土地の風景と一体化した庭です。そのためには、使用する素材を、できるだけ人工的な印象を与えない「自然素材」に限定し、かつ、その土地の景観から浮き上がらないように配慮することが求められます。
光沢のあるプラスチック製品や、カラフルに塗装された金属製品といった、明らかに人工的な素材は極力避けるべきです。主体となるのは、温かみのある「木」、重厚感と永遠性を感じさせる「石」、そして生命の源である「土」や、それらを繋ぐ「砂利」といった、自然界に存在する素材です。
特に、庭の骨格を形成する石材の選び方は重要です。可能であれば、その地域で古くから産出されている種類の石を選ぶと、より一層その土地の風景に自然に溶け込みます。また、全体の色彩計画においても、目に鮮やかな原色系の色は避け、木々の幹の色、土の色、岩の色といった、自然界に存在する穏やかな「アースカラー(茶、緑、ベージュ、グレーなど)」を基調にまとめることが、庭全体に落ち着きと統一感をもたらし、植物の持つ繊細な色彩を最大限に引き立てるための基本となります。
4. 四季を楽しめる植栽計画の立て方
「花の時期」だけでなく「葉の色と形」を重視する
一年を通じて魅力的な庭を維持するためには、植栽計画を立てる際に、視点を花の「色」や「開花時期」だけに限定しないことが極めて重要です。なぜなら、ほとんどの植物が花を咲かせている期間は、一年の中のほんの数週間だからです。花の時期が終わった後も、庭が寂しく、物足りない印象にならないようにするためには、花の咲いていない期間、すなわち「葉」が主役となる時期の景観を緻密に計算する必要があります。
その鍵を握るのが、葉の色や形、質感(テクスチャー)そのものが美しい「カラーリーフプランツ」の巧みな活用です。例えば、ライムグリーンや青みがかった葉を持つギボウシ(ホスタ)、銅葉やシルバーリーフなど多彩な葉色を持つヒューケラ、ビロードのような質感のラムズイヤー、シャープなフォルムのグラス類。これらの植物は、花がなくても十分に観賞価値があり、庭の基本的な色彩や構造を、シーズンを通じて安定して支えてくれます。様々な色や形の葉を組み合わせることで、まるで絵画を描くように、庭に深みと変化に富んだ表情を与えることができるのです。
「植栽リレー」と「冬の骨格」の設計
四季の移ろいを庭で楽しむための具体的な植栽手法が「植栽リレー」です。これは、春一番に地面から顔を出すクロッカスやスノードロップといった球根植物から始まり、初夏、盛夏、秋、そして初冬へと、季節の進行に合わせて次々と開花期を迎える植物を、バトンを渡していくようにリズミカルに配置する計画です。宿根草を中心に据えながら、一年草や球根植物、そして花木を効果的に組み合わせることで、常に庭のどこかが見頃である、という生命感あふれる状態を創り出すことができます。
さらに、真のナチュラルガーデンの設計では、多くの植物が地上部を枯らす「冬」の景色の美しさにまで配慮が及びます。葉を落とした落葉樹の繊細で美しい枝ぶり、雪の中でも緑を保つ常緑樹の存在感、そして、枯れてもなお立ち枯れの姿で庭のシルエットを形成する宿根草やグラス類の穂。これらが、冬の庭の静寂と構造を支える「冬の骨格」となります。
特に、エキナセアやパニカムといった植物は、花後や枯れた後の姿が非常に美しく、冬の間、鳥たちのための餌場や隠れ家ともなります。生命のサイクルそのものをデザインとして取り込み、冬枯れの風景に詩的な美しさを見出すこと。それこそが、ナチュラルガーデンが持つ、奥深い魅力の源泉なのです。
5. ナチュラルガーデンに適した庭の舗装材
水と空気を土に還す「透水性」という視点
ナチュラルガーデンにおける小道やテラスの舗装材を選ぶ際には、デザイン性や耐久性といった一般的な基準に加え、「透水性」という、もう一つの重要な視点を持つことが推奨されます。ナチュラルガーデンとは、単に自然な見た目を模倣するだけでなく、その土地の生態系との調和を目指す思想でもあります。地面をコンクリートやアスファルトで完全に覆ってしまう非透水性の舗装は、雨水を地面に浸透させることなく、下水へと一気に流してしまいます。これは、地下水の涵養を妨げ、地域の生態系に少なからず影響を与える可能性があります。
そこで、ナチュラルガーデンでは、水や空気を緩やかに土へと還すことができる、透水性の高い舗装が好まれます。例えば、古枕木や自然石、レンガなどを敷く際に、目地(部材同士の隙間)をセメントで固めてしまうのではなく、砂や砂利で埋めたり、あるいはタイムやセダムといった、踏みつけに強いグラウンドカバープランツを植え込んだりします。これにより、雨水は目地からゆっくりと地面に浸透し、植物の根にも潤いを与えます。見た目にも、人工的な硬さが和らぎ、より自然で柔らかな印象の舗装となります。
おすすめの舗装材とその特性
透水性を確保しつつ、ナチュラルな雰囲気を演出できる舗装材には、様々な選択肢があります。鉄道で実際に使われていた「リサイクル枕木」は、その古材ならではの温かみと、刻まれた傷や風合いが、庭に時間の経過を感じさせる独特の雰囲気をもたらします。ただし、防腐剤としてクレオソート油が使われているものは、健康への影響が懸念されるため、避けるのが賢明です。
「自然石の乱張り」は、大きさも形も不揃いな石材をパズルのように組み合わせていく手法です。一枚一枚の石が持つ豊かな表情が、自然で有機的な景観を創り出します。また、「レンガ」も定番の素材であり、その敷き方(真っ直ぐ並べる、斜めに並べるヘリンボーンなど)によって、多様な表情を見せることができます。アンティーク調の、角が取れて色むらのあるレンガを選ぶと、よりナチュラルな雰囲気に馴染みます。
より手軽で安価な方法としては、「ウッドチップ」や「バークチップ(樹皮)」を敷き詰めるアプローチがあります。これらは施工が簡単で、土壌の乾燥を防ぎ、雑草を抑制する効果も期待できます。そして何よりも、数年経つと分解されて自然に土に還っていくという、まさに自然のサイクルを体現した素材と言えるでしょう。
6. ガーデンデザインで重要なゾーニングの考え方
「自然に見える」は「無計画」ではない
ナチュラルガーデンという言葉から、「計画などせず、自然の成り行きに任せる庭」というイメージを抱く人がいますが、これは根本的な誤解です。むしろ、真に美しく、機能的なナチュラルガーデンほど、その裏側には緻密に計算された「ゾーニング」という設計思想が存在します。ゾーニングとは、庭という限られた空間を、その機能や目的に応じて、いくつかの意味ある「ゾーン(エリア)」に分け、それぞれに適切な役割を与えるという、ガーデンデザインの基本的な手法です。
「自然に見える」景観とは、決して「無計画で雑然とした」状態ではありません。もし庭全体が同じような植栽で覆われているだけならば、それは単調で、どこをどう歩いていいのか分からない、使い勝手の悪い空間になってしまいます。ゾーニングを行うことで、庭全体に秩序と構造が生まれ、人がその空間をどのように使い、楽しむべきかが明確になります。自然の風景が、森があり、草原があり、川辺があるように、多様な要素で構成されているのと同じように、庭の中にも多様なゾーンを設定することが、変化に富んだ魅力的な空間を創出する鍵となるのです。
具体的なゾーンの分け方と繋がり
ゾーニングは、まず自分たちのライフスタイルを分析することから始まります。この庭で、誰が、どのように過ごしたいのかを具体的に考え、必要なゾーンを洗い出します。例えば、「お客様を迎えるアプローチとしてのゾーン」「家族で食事やくつろぎの時間を過ごすテラスやウッドデッキのゾーン」「子供が安全に遊べる芝生のゾーン」「野菜やハーブを育てる家庭菜園のゾーン」「あまり人目に触れさせたくない物置や作業スペースのゾーン」といったように、機能別にエリアを分けていきます。
重要なのは、これらの異なるゾーンを、いかにして自然に、そして緩やかに繋ぎ合わせるかという点です。ゾーンとゾーンの境界を、硬い壁やフェンスで明確に区切ってしまうと、庭が分断され、狭く感じられてしまいます。そこで、背の低い植え込みや、緩やかにカーブする小道、あるいは素材の変化(レンガ敷きから砂利敷きへ、など)によって、境界を曖昧にしながらも、それぞれのゾーンが緩やかに繋がっているようなデザインを心掛けます。このゾーニングによって、人の動きや視線は自然にコントロールされ、庭全体が機能的でありながらも、一体感のある、美しい自然風景として成立するのです。
7. DIYで作れるナチュラルガーデンアイデア
枕木やレンガを使った「小道」づくり
ナチュラルガーデンの雰囲気を、DIYで最も効果的に、そして比較的手軽に取り入れることができるプロジェクトが「小道」づくりです。庭の中に一本の小道を通すだけで、空間に動線と目的が生まれ、単なる空き地から、散策して楽しむ「庭園」へとその性格を大きく変えることができます。
素材として特におすすめなのが、「枕木」や「アンティークレンガ」です。これらの素材は、それ自体が持つ古びた風合いが、ナチュラルガーデンの世界観と見事に調和します。施工方法も、必ずしもモルタルで固める必要はありません。地面にそのまま並べていくだけでも、十分に雰囲気のある小道になります。より長持ちさせたい場合は、地面を数センチ掘り下げて砂利を敷き、その上に砂を敷いてから枕木やレンガを並べると、安定性が増し、水はけも良くなります。
デザインのポイントは、前述の通り、直角に曲げるのではなく、緩やかなカーブを描くように配置すること。これにより、視線がゆっくりと奥へと導かれ、自然で柔らかな印象の景観が生まれます。
端材でつくる「バードハウス」と「手作りフェンス」
ナチュラルガーデンの大きな魅力の一つは、植物だけでなく、そこに集まる鳥や蝶、虫といった生き物たちとの共生を楽しめる点にあります。こうした小さな訪問者を庭に招き入れるためのアイテムを、DIYで手作りするのも素晴らしいアイデアです。例えば、家を建てた際に出た木材の端材や、使い古した古材を利用して、野鳥のための「バードハウス(巣箱)」や「バードバス(水飲み場)」を作ってみましょう。完璧に整った製品にはない、手作りならではの素朴な温かみが、庭の雰囲気をより一層豊かなものにしてくれます。
また、既製品のアルミフェンスや樹脂フェンスは、機能的ではありますが、ナチュラルガーデンの世界観には馴染みにくい場合があります。そこで、庭で剪定した太めの枝や、不揃いな木材などを組み合わせて、素朴な「手作りフェンス」や「枝穂垣」をDIYするのも一興です。きっちりと作り込むのではなく、あえてラフに、不均一に組んでいくのが、自然に見せるコツです。大切なのは、工業製品のような完璧な仕上がりを目指すのではなく、手作りならではの不完全さや歪み、温もりを楽しむという姿勢です。そのおおらかな気持ちこそが、ナチュラルガーデンの精神と深く通じ合っているのです。
8. 手入れが簡単なナチュラルガーデンの作り方
「ローメンテナンス」の思想を取り入れる
「ナチュラルガーデンは、自然に近いのだから手入れが楽だろう」というイメージは、多くの人が抱きがちな、しかし大きな誤解です。完全に放置すれば、特定の強い植物だけがはびこり、病害虫の温床となり、やがては手に負えない荒れ地になってしまいます。真に持続可能なナチュラルガーデンを実現するためには、計画段階から「ローメンテナンス(低管理)」の思想を設計に組み込むことが不可欠です。
その最も重要な原則は、「適材適所」の植栽、すなわち、その土地の気候風土に合った植物を選ぶことです。日本に自生する植物や、それに近い性質を持つ園芸品種を積極的に取り入れることで、夏の暑さや冬の寒さ、病害虫に対する耐性が高まり、過度な水やりや施肥、薬剤散布といった管理の手間を大幅に減らすことができます。
また、雑草対策もローメンテナンス化の鍵です。地面が露出している場所が多ければ多いほど、雑草が生える機会は増えます。そこで、アジュガやヒメイワダレソウといった、地面を覆うように密に広がる「グラウンドカバープランツ」を多用します。これらが地面を覆い尽くすことで、雑草が生えるスペースを物理的になくし、同時に土壌の乾燥を防ぎ、景観を緑豊かに保つという、一石三鳥の効果が期待できるのです。
「ノーメンテナンス」ではなく「グッドメンテナンス」を目指す
手入れが簡単なナチュラルガーデンが目指すべきは、一切何もしない「ノーメンテナンス」の状態ではありません。目指すべきは、自然のサイクルに寄り添い、生態系のバランスを保つために、必要最小限の管理を、適切なタイミングで行う「グッドメンテナンス」という考え方です。
例えば、特定の植物が他の植物の生育を阻害するほどに広がりすぎた場合は、適度に間引いて整理する必要があります。これは、庭という小さな生態系の多様性を維持するための、園丁としての重要な役割です。また、一般的には、花が咲き終わった後は、次の花のために栄養を温存させ、見た目を整えるために「花がら摘み」を行いますが、ナチュラルガーデンでは、これをあえて全て行わないという選択肢があります。
枯れた花がら(シードヘッド)は、冬の間、野鳥たちの貴重な餌となります。また、その独特のフォルムは、冬枯れの庭において、趣のある美しい景観の一部となります。このように、人間の都合だけで管理するのではなく、庭の生態系全体の一部として、あるいは季節の移ろいを表現する要素として、植物の生命サイクルを見守る。この、過度に干渉しすぎない、おおらかな管理こそが、持続可能で、かつ真に自然な庭を育むための秘訣なのです。
9. ナチュラルテイストの庭に合う家具と小物選び
自然素材とシンプルなデザインの家具
ナチュラルガーデンに置くガーデンファニチャーは、庭の主役である植物たちの風景に、静かに、そして美しく溶け込む存在でなければなりません。華美な装飾や、人工的な素材感、目に飛び込んでくるような派手な色彩は、自然の景観との調和を乱してしまいます。家具選びの基本は、あくまで「自然素材」を主体とし、「シンプルなデザイン」のものを選ぶことです。
最も相性が良いのは、やはり木製の家具です。特に、塗装を施していない、あるいは自然塗料で仕上げられた無垢材のベンチやテーブルは、その温かみのある質感が、植物の緑と見事に調和します。そして、屋外に置かれた木製家具は、時間と共に雨風にさらされ、その色合いを味わい深いシルバーグレーへと変化させていきます。この経年変化こそが、家具を庭の歴史の一部とし、風景に深みを与えてくれるのです。
また、アイアン(鉄)製の家具も、デザインによっては良い選択肢となります。ただし、ロココ調のような過剰な装飾のあるものではなく、直線と緩やかな曲線で構成された、飾り気のない、素朴で華奢なデザインのものを選ぶのがポイントです。家具は、庭の中で自己主張するオブジェではなく、あくまで人が自然の風景の中に佇み、その一部となるための、控えめで美しい「道具」として捉えることが大切です。
主張しすぎない、物語を感じさせる小物
庭に彩りと個性を添える小物の選び方も、家具と同様に「主張しすぎない」ということが、ナチュラルガーデンの世界観を保つ上での鉄則です。ピカピカの新品の雑貨よりも、まるでずっと昔からその庭にあったかのような、時間の経過と物語を感じさせる小物が、その風景にすっと馴染みます。
例えば、少し錆びが浮いたブリキのジョウロやバケツ、縁が欠けて苔むしたテラコッタの植木鉢、古道具市で見つけたアンティークの小瓶など。こうしたアイテムは、それ自体が持つ歴史の気配が、庭の風景に奥行きと、見る人の想像力を掻き立てる余白を与えてくれます。
たくさんの小物を無秩序に飾るのは、かえって雑然とした印象になり、ナチュラルガーデンの良さを損ないます。数はごく少数に絞り込み、庭の中のフォーカルポイント(視線が集まる場所)となるような場所に、意図的に、そして効果的に配置するのがコツです。例えば、小道の曲がり角に置かれた一つの古びた椅子。それは、ただの椅子ではなく、「誰かがここで休んでいたのかもしれない」という物語を、私たちに語りかけてくれるのです。
10. 実例から学ぶナチュラルガーデンデザイン
雑木林の風景を切り取った庭
成功しているナチュラルガーデンのデザインには、いくつかの典型的なパターンが存在します。具体的な事例名は挙げませんが、その一つが、日本の里山に広がる「雑木林」の、あの心地よい空気感を、個人の庭という限られた空間に再現しようと試みるアプローチです。
このスタイルの庭では、一本の華やかな花木をシンボルツリーとして据えるのではなく、コナラやアオダモ、モミジといった、株立ち(根元から複数の幹が伸びる樹形)の、繊細な枝ぶりの樹木を複数、リズミカルに配置します。それらの木々が、庭に高低差と立体感のある骨格を形成します。そして、その足元、つまり林床には、直射日光を嫌うシダ類やギボウシ、ヤブラン、クリスマスローズといった日陰に強い植物が、しっとりとした地表の景観を作り出します。木々の間を縫うように、緩やかにカーブした小道が続き、その先には、木漏れ日が落ちる小さなウッドデッキが設えられている。
このデザインの成功の鍵は、特定の美しい花を主役にするのではなく、木々の幹肌の質感、多様な緑の葉の濃淡、そして光と影が織りなす陰影といった、雑木林全体の「雰囲気」そのものをデザインの対象としている点にあります。
宿根草とグラスが揺れる草原風の庭
もう一つの現代的な成功パターンとして、ヨーロッパのガーデンデザインの潮流から生まれた、宿根草とオーナメンタルグラスを中心とした「草原風」の庭が挙げられます。これは、あたかも自然の草原や牧草地の一片を切り取ってきたかのような、ダイナミックで野趣あふれる景観を特徴とします。
日当たりの良い、少し開けたスペースに、スティパやパニカム、アンドロポゴンといった、風にそよぐ姿が美しいオーナメンタルグラスを、群生するように、あるいはドリフト状に植栽します。これらが庭の骨格となり、動きと軽やかさを演出します。そして、そのグラスの間に、エキナセアやルドベキア、アガスターシェ、バーベナ・ボナリエンシスといった、丈夫でナチュラルな雰囲気を持つ宿根草を、まるで自然に生えてきたかのように、ランダムに、しかし計算された配置で植え込んでいきます。
このスタイルの庭が、単なる雑草の生えた空き地と一線を画すのは、植物の高さ、開花時期、花の色、そして葉の形といった要素が、実は緻密に計算され、構成されているからです。一年を通じて、次々と主役が移り変わり、季節の終わりには、枯れた花がらやグラスの穂が、冬の美しい風景を作り出す。この「自然に見える」景観こそが、実は高度な植物知識と、卓越したデザイン力に支えられていることを示す、最良の事例と言えるでしょう。
自然という名の、最高の芸術を庭に
ナチュラルガーデンを創造するための、デザインの本質と具体的な手法について、多角的に探求してまいりました。自然に見せるための曲線の使い方、計算された植栽テクニック、経年変化を楽しむ素材選び、そして自然のサイクルに寄り添う管理の哲学。これらの知識は、あなたの庭づくりを、より深く、より創造的な活動へと導いてくれるはずです。
忘れてはならないのは、ナチュラルガーデンづくりに、唯一絶対の完成形は存在しないということです。それは、一度作って終わり、という静的なものではなく、植物が成長し、季節が巡り、そして時には予期せぬ植物が芽生えるといった、常に変化し続ける、動的なプロセスそのものです。その変化を受け入れ、自然との対話を楽しみながら、少しずつ手を加えていく。その時間の中にこそ、ガーデニングの最も豊かな喜びが隠されています。
本記事でご紹介したポイントを羅針盤としながらも、最終的には、あなた自身が「心地よい」と感じる感性を何よりも大切にしてください。あなたの庭は、世界中のどんな名園とも違う、あなただけの物語を紡ぐ場所です。この記事が、あなたが自然という名の最高の芸術家と共に、我が家だけの美しい風景を育んでいく、その長く、そして楽しい旅路の一助となったなら、これ以上の喜びはありません。
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